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Exhibitions

  • Goro Murayama, Three colour systems and double pattern coupling #1, 2025, Paper-mounted canvas, Japanese paper, coloured pencils, acrylic, (H)162.0 x (W)112.0 cm

  • Goro Murayama, Three material colour systems, 2025, Iron, cobalt, titanium, acrylic on paper, (H)104.0 x (W)79.0 cm

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村山悟郎|制作知のアブダクション

11 October - 22 November, 2025

Venue : Takuro Someya Contemporary Art

Takuro Someya Contemporary Artは、村山悟郎キュレーションによる展覧会を開催いたします。本展は、村山の東京大学大学院における連続講義「芸術制作論」の書籍化を契機に企画されました。

 

15年以上にわたる創作と研究を礎に、「制作(ポイエーシス)」という概念について、関連資料や他作家の作品、そして自身の最新作を交え展覧します。ドローイングを中心的手法に据えつつ、科学・哲学・芸術の交差点としての「制作知」のあり方を探求する本展では、AIと人間の創造性の比較、古代思想から現代技術までを横断するトピックを通して、生成/制作という営みの理論的・実践的可能性を提示します。他者との協働や自己形成としての制作を問い直すことで、「私」という存在の根源に迫る試みとなるでしょう。

 

Takuro Someya Contemporary Art

 

 

 

 

制作のさい「手を動かして考える」と、言うことがある。頭の中だけで考えていてはダメだ、実際に行為をとおして世界の変化を感じ取ることが大事だ、と。ではいったいその内実とはどのようなものか?手を動かして考える人とは、いったい何をやっているのか?これが〈制作知 : ポイエーシス〉の第一の問いである。

 

ポイエーシスとは、アリストテレスに倣って言えば、詩作や作曲のような韻律すなわち時間の生成に関わっている。しかし、歴史記述(ヒストリアー)のような確定した因果系列を外側から記述するのとは異なっており、時間の只中にあって自ら時間を生成するような制作のモードである。例えば詩作において、日常的な用法から離れた語と語の組み合わせから言葉を紡いでみよう。試しに「親しい」という形容詞と、「石」という名詞を合わせてみる。すると〈親しい石〉となる。これは現実に存在する石の記述(重い石、硬い石、平たい石、等々)とは違う。ひとたび〈親しい石〉と言ってみたならば、何かこの語から別様なイメージが出現している。子供の頃から肌身離さず持っている石だったり、親しい人から譲り受けた大切な石だったり、あるいは石自体が生きて人に語りかけてくる情景を想起するかもしれない。こうした基本的な要素と要素の組み合わせによって新たな様相が出現することを「小さい創発 micro emergence」と呼ぼう。詩作は、こうしたイメージを契機にして次の一文へと展開してゆく。手を動かし、状況を変えることで、文面や画面に起きている小さい創発に気づくこと、これが制作におけるセンスである。画家が画面に次なる線を描きいれるときも、二次元空間のなかで絶えず小さい創発が起きている。小さい創発は、あらかじめ全体像を持つことが出来ない。要素と要素を組み合わせることへの予期、小さい創発への感知、これらが身体やマテリアルの偶有性を伴って次なる新しい状況を産出してゆくのである。画家がよく口にする「画面との対話」の内実とはこのようなものだ。

 

本展では、制作知をとくにドローイングにおいて主題化する。行為遂行的な描線。ドローイング〈線、繊維、管による表現〉は歴史的にみても多様な文化のなかに見い出され、無数のモードを持っており、普遍的な制作形態だと言えるだろう。さらに制作知/ドローイングを、人間による営みに限定せず、人類・機械・生命へとひらく。この射程は、現代社会や美術史といった領域よりもはるかに広範である。レヴィ=ストロースが採取した先住部族の身体塗色、古代の迷路[labyrinth]、田中敦子の電気回路とブライテンベルクのビークル、セルオートマトンのClass4、オートポイエーシスの細胞膜形成運動などを取り上げ、パターン・意味・生命の制作/生成についてドローイングをとおして思考する。制作知の理解にとって、行為の痕跡やプロセスをトレースできるドローイングは強力な道具立てとなる。たんに作者独自のパターンを生成するだけでなく、それが可読性を伴ったドローイングとして表されるため、鑑賞者はこの痕跡を読み解き、作者の制作のモードを感受することができるはずである。そうした点で言えば、ドローイングは、絵画よりも多様な文化にまたがる汎用性の高い表現と言えるだろう。

 

生命の自己制作システムであるオートポイエーシスを提唱したフランシスコ・ヴァレラは、認知を、記号的表象の計算としてではなく、身体行為による知覚の形成運動(感覚と運動とそれらを連関させる神経系)として捉えた。世界も<私>も、あらかじめ独立して与えられるのではなく、行為をとおして現れる。これを制作に敷衍して、展覧会を始めよう。

 

「<私>が制作するのではない、制作をとおして<私>が絶えず出現する。」

 

村山悟郎

 

 

 

 

村山 悟郎

1983年、東京生まれ。アーティスト。博士(美術)。絵画を学び、生命システムや科学哲学を理論的背景として、人間の制作行為(ポイエーシス)の時間性や創発性を探求している。代表作「織物絵画」に見られるように、自己組織的なプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。また近年は科学者とのコラボレーションによって、AIのパターン認識/生成や、人間のAIにたいする感性的理解を探るなど、表現領域を拡張しつづけている。
2010年、shiseido art egg賞を受賞。2010-11年、ロンドン芸術大学チェルシーカレッジ MAファインアートコース(交換留学)、2015年、東京芸術大学美術研究科博士後期課程美術専攻油画(壁画)研究領域修了。2015-17年、文化庁新進芸術家海外研修員としてウィーンにて滞在制作(ウィーン大学間文化哲学研究室客員研究員)。2024年に東京大学比較文学比較文化で客員准教授を務め、現在は武蔵野美術大学映像学科および東北芸術工科大学大学院で非常勤講師を務めている。

 

 

 

[展覧会概要]

 

村山悟郎|制作知のアブダクション

 

会期:2025年10月11日(土)〜11月22日(土)※会期が延長されました
開廊:火〜土 11:00 – 18:00
休廊:日曜・月曜・祝日
会場:Takuro Someya Contemporary Art
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex I 3F TSCA
tel 03-6712-9887 |fax 03-4578-0318 |e-mail gallery@tsca.jp

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