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Current Exhibition

村山悟郎|データのバロック

2 March - 6 April, 2024

Venue : Takuro Someya Contemporary Art

  • Goro Murayama Data Baroque – A Thousand Drawings for Machine Learning. No. 84 2023, Acrylic on paper and iron pigments

  • Goro Murayama Data Baroque – A Thousand Drawings for Machine Learning. No. 368 2023, Acrylic on paper and iron pigments

  • Goro Murayama Data Baroque – A Thousand Drawings for Machine Learning. No. 377 2023, Acrylic on paper and iron pigments

この度、Takuro Someya Contemporaty Artでは、村山悟郎による個展「Data Baroque データのバロック」を開催いたします。新型コロナウィルスのパンデミックの最中に開催した初個展を経て二度目となる本個展では、3月1日から東京都写真美術館で開催される「記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から」におけるプロジェクトの起点として制作されたおよそ700点におよぶドローイングのシリーズ「Data Baroque–機械学習のための千のドローイング-」から、約300点を展示します。

 

 

 

 

「データのバロック」

 

 AIの発展によって人間の生はどう変わるのか?という問いは、芸術の<制作>においても差し迫った問いとなるだろうか。人類芸術のカタログを読み込ませて生成する再現。あるいは、AI生成物を芸術と見做す新しい視点。さらに既存のプロダクションにおけるAI生成物の部分的な代替。しかし、これらの表現を見通したときに、未だ不足があるような感触は否めない。そこには芸術という概念からして決定的な欠落があるのか、あるいは単に技術的な水準のブレイクスルーを待っているのだろうか。

 

 ボードゲームとAIの関係を引き合いに出してみる。チェス、囲碁、将棋のようなゲームにおいては、ルール・有限な状態・勝敗がある。膨大な棋譜データを学習させ、その都度の最善手を予測計算し、数億手先まで読むことができるという。こうしたマシンと訓練するプロ棋士は、以前とは違う感覚を掴んでいるに違いない。熟練した棋士は、ある戦況を「形」として、二次元的な直感で把握するという。そうした人間の直感にAIの膨大な予測計算が結びついて、棋士の思考のタイムスケールは拡張するのである。では、芸術の<制作>においてデータとは何だろうか?

 

 芸術のデータを便宜的に<制作過程、作品、批評的背景>に分けて考えてみると、圧倒的に欠落しているのは個別の制作過程のデータである。これはしばしば作家自身によって秘匿され、歴史の荒波にさらわれて跡形もなく消え去る。しかし作家主体の思考の現れである制作過程を欠いては、AIに学習されるのは<鑑賞される芸術>の側面でしかない。棋譜抜きの囲碁将棋のようなものだ。芸術とは鑑賞されるものであると同時に、つくるものであるから、個別の制作過程のデータは欠かせないはずである。

 

 とはいえ芸術には、明示的なルールも有限な状態も自明な勝敗も存在しない。では、どのような制作過程を記録すればよいのか。本作では、私にとって原初的なドローイング<二つの反復する筆致でパターンを構成する>を用いて、全て統一したフォーマットで制作を行ない、一筆一筆を写真で記録した。学習データは数が多いほど精度があがるため、作品点数は1000枚を目処とした。途方もない作業であり、制作のオーダー自体が変わってゆく。一枚一枚を単一のアルゴリズムで生成するAIとは違い、制作プロセスには創発と段階的なパターンの発展が刻まれ、絵から自然言語へと発達するような道筋が現れている。

 そう、AI時代においてすでに転回はおきているが、人間は既存のデータを解析するのではなく、より現実を反映するであろうデータをAIに読ませようと苦心するなかで、新しい現実性に突入してゆく。それを「データのバロック時代」と呼んでみても面白かろう。

 

村山悟郎

 

 

 

 

 

東京藝術大学在学中の2008年度に東京都現代美術館に作品が収蔵されたことで話題を呼ぶなど、常に高い注目を集める村山は、科学やテクノロジーといったさまざまな領域と協働し、「いかに世界は創発するか?」という根源的な思索を元に、自己組織化のプロセスやパターンを絵画やドローイングを通して現してきました。作品を通じ人間の創意の可能性を追求しており、外在的な環境やシステムとの相互関係の中で自身の作品を発展させていくことを模索しつづけています。セルオートマトンや黄金比など、数理的なモデルを用いた制作は、昨今存在感を増すジェネラティブ・アートをはじめ、さまざまな美術史的な動向との関連を見出すことができますが、近年では、TSCA初個展「Painting Folding」(2022)で新型コロナウィルスの形成にも関連するタンパク質の3次元構造を参照に制作されたシリーズを発展させた「ICC アニュアル 2022 生命的なものたち」(2022年、NTTインターコミュニケーション・センター)におけるプロジェクトが、さまざまな領域の第一人者からも高い評価を得ました。同プロジェクトにおいて村山は、AIの機械学習を利用することで、タンパク質構造の規則性を踏襲しつつも素材となる麻の繊維としての性質も反映して織り上げた「織物絵画」の3次元構造からアミノ酸配列を逆計算し、自然に存在しうるタンパク質構造を新たに導き出すことを試みました。

 

本展では、AIとの相互学習から村山の作品がときに複雑に組織化しつつ発展する過程を見るプロジェクトのために、村山自身が1年をかけてAIに向け描いたおよそ700点におよぶドローイング・シリーズを網羅的に展示します。タイトルにある「データのバロック」は、高度に発達したAIに学習させるために、人間がAIのためのデータ作成に創意工夫する時代を予期した村山によって提案されました。AIが人に代わる時代の到来が取り沙汰される今日、それは悲観的に思われることもありますが、例えば鳥が交配相手を獲得するため世界−対象に対して自らを装飾的/劇的につくりだすように、人がAIのためにより「装飾」されたデータをつくりつづける時代がくるならば、そうした人間の創意を豊かで美しい形でデータの中に留めることができるかもしれません。

 

本展におけるドローイングは、村山に特徴的な、シンプルでありながらも生命感のある反復した線で描かれており、そのパターンが多様で複雑であるほど、それらを学習するAIもより人間に近い描画を生成することができる可能性があります。このような科学やAIを通じた村山の制作は、芸術の領域からの能動的な試みとして、どこまで村山が自身の表現を更新可能か探っています。テクノロジーの発展によって合理的にシステム化されていく世の中にあって、それらに取り込まれるのではなく、どのように協働し、新たな可能性を探ることができるのか。本展における村山の取り組みは、このような問いへと思考をひらく契機となるでしょう。

 

Takuro Someya Contemporary Art
執筆協力:岩垂なつき

 

 

 

 

 

村山悟郎 Goro Murayama


1983年、東京生まれ。アーティスト。博士(美術)。絵画を学び、生命システムや科学哲学を理論的背景として、人間の制作行為(ポイエーシス)の時間性や創発性を探求している。代表作「織物絵画」に見られるように、自己組織的なプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。また近年は科学者とのコラボレーションによって、AIのパターン認識/生成や、人間のAIにたいする感性的理解を探るなど、表現領域を拡張しつづけている。

2010年、shiseido art egg賞を受賞。2010-11年、ロンドン芸術大学チェルシーカレッジ MAファインアートコース(交換留学)、2015年、東京芸術大学美術研究科博士後期課程美術専攻油画(壁画)研究領域修了。2015-17年、文化庁新進芸術家海外研修員としてウィーンにて滞在制作(ウィーン大学間文化哲学研究室客員研究員)。2024年現在、東京大学現代思想コース客員准教授、武蔵野美術大学映像学科・東北芸術工科大学大学院・非常勤講師。

主な展覧会に、2024年「記憶-リメインブランス:現代写真・映像の表現から」東京都写真美術館、2023年「GO FOR KOGEI 2023」富山市、2022年「ICC アニュアル 生命らしきもの」NTTインターコミュニケーションセンター / 初台、「FUJI TEXTILE WEEK 2022」富士吉田市、「瀬戸内国際芸術祭」男木島 / 香川(’19, ‘22)、「Drawings – Plurality 複数性へと向かうドローイング〈記号、有機体、機械〉」PARCO Museum TOKYO / 東京. 2020年 個展 「Painting Folding」 Takuro Someya Contemporary Art / 東京. 2019年「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」 愛知県美術館、「L’homme qui marche Verkörperung des Sperrigen」クンストハレ ビーレフェルト / ドイツ、 「The Extended Mind」 Talbot Rice Gallery、 スコットランド、「21st Domani 明日展」国立新美術館 / 東京. 2018年「Emergence of Order」大和日英ジャパンハウス / ロンドン. 2016年「シミュレーショナル・ポイエーシス」 Spektakel / ウィーン. 2014年「東京芸術大学 大学院美術研究科 博士審査展」東京芸術大学美術館.  2013年「VOCA展2013 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」上野の森美術館 / 東京、「生成のヴィジュアル -触発のつらなり」Takuro Someya Contemporary Art / Kashiwa、千葉. 2011年「成層圏vol.6 私のゆくえ 村山悟郎」ギャラリーαM / 東京、「TRANS COMPLEX – 情報技術時代の絵画」京都芸術センター. 2010年、シセイドウアートエッグ「絵画的主体の再魔術化」資生堂ギャラリー / 東京. 2009年「MOTコレクション・MOTで見る夢」 東京都現代美術館など。

 

 

 

 

 

村山悟郎|Data Baroque データのバロック

 

会期:2024年3月2日(土)〜4月6日(土)
レセプション:3月2日(土)15:00〜18:00 ※作家来場予定
開廊:火〜土 11:00 – 18:00
休廊:日曜・月曜・祝日 
会場:Takuro Someya Contemporary Art

〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex I 3F TSCA
TEL 03-6712-9887 |FAX 03-4578-0318 |E-MAIL: gallery@tsca.jp

Artist Profile

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