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Past Exhibition

岡﨑乾二郎

10 November - 11 December, 2016

Venue : Takuro Someya Contemporary Art

  • “Every single pine needle, every grain of sand at the beach, every fog in the dark woods…,” 2016, Acrylic on canvas, H 210 x W 210 x D 7 cm

 

今年10月まで開催されていた、おかざき乾じろの個展『POST /UMUM=OCT /OPUS』(2016. 風の沢ミュージアム 宮崎)に、岡﨑は「デウス・エクス・マキナあるいは2040年の夢落ち」というテキストを寄せています。ここでは人工知能が世界にもたらすシンギュラリティ、すなわち2045年問題を目前にして作家が抱く未来について語られています。意識をもった機械と、人間の意識のゆくえ、そして作品のありようについて触れたものです。人は、人間に固有の保有物とされてきた従来の意識を捨てさり機械の意識に促される形で、中心を持たず個別の身体や知能を超えてひろがり遍在する、はるかに充実した無尽蔵の広がりをもつ物質=自然に備わった力に根ざした判断力をもっていることに目覚めるかもしれない、と。同じように作品と呼ばれるものもまた、その中心軸として撚って編まれた情報が解きほぐされ拡張して空間化し、非知覚化・非物質化してしまうかもしれない。しかし、それで良い「その作品の、メディウムとしての真価はむしろ、以前よりもハッキリと現れてくるはず」と岡﨑は言います。
このようなメッセージは、2040年と新しい知性の到来の予見を受けて発せられたのではなく、岡﨑自身が以前から抱き続けてきた思想の一部として、作品制作や執筆の活動へと繋がってきていたのではないかとも感じられます。絵画作品の画面構成においても、半透明に色づいてやわらかな絵の具が画面のところどころを均しくせめぎ合って混じり合わず、かつ相通ずるようにカンバス上に遍在し偏在するように塗り拡げられ、平面空間を無限に拡張してゆく様子があります。「かたちの発語展」(2014. BankART1929 横浜)では、石膏やブロンズ、構造集成材による大型の新作彫刻から、1986年に発表された綿布と絹によるテキスタイルの平面の大作、1999-2006年に制作されたテラコッタの彫刻、そしてタイル作品まで含む過去と現在の作品群を体感してみることで、一貫して空間や時間、作品構成自体にすら制約されない自由さに触れることができました。遡ってみても2007年には舞踏家トリシャ・ブラウンとのコラボレーションのダンス作品『I love my robots』では、ダンサーと自走する装置(ロボット)が共存する空間を現し(本年3月のKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2016 SPRINGで京都国立近代美術館で開催されたトリシャ・ブラウン・ダンスカンパニー公演『Trisha Brown: In Plain Site』にて、岡﨑のレクチャーが実施されテキストも寄稿しています)、また建築分野では、「灰塚アースワーク・プロジェクト」などでのランドスケープの設計、「ヴェネツィア・ビエンナーレ第8回建築展」(2002)では日本館ディレクターを務めています。執筆においても、『ルネサンス 経験の条件』(筑摩書房, 2001/文藝春秋〈学藝ライブラリー〉, 2014。解説・斎藤環)を主著とした思想や批評を独自に展開。今年に入っての講演やレクチャーでは、これまでの近現代美術の動向を解体し、日本とアジアそして欧米などといった特定の地域に回収されない連環するような歴史の網目を拡げ、過去の作家への想像力をより解像度を鮮明に掻き立てる研究を発表しています。教育活動では「四谷アートステュディウム」そして「ポストステュディウム」を場として、若手のアーティストや研究者達との開かれた交流を続けています。

その中で、岡﨑乾二郎という作家は、作品をはじめ対象についてただ形式を分析的に解いて見せているわけではなく、文学的で詩性を帯びて現すために、意識において対象の座標を明示的にすることで、自由自在で多様な象や彩りを生み出しているように思われます。そうした岡﨑の意識は、絵画や彫刻をはじめ岡﨑の作品に「美しさ」を与えるのと同様に、それまでに積み重ねられた制作や言説、思想の集合そのものに、社会の源泉となる資質を与える重要性も持っています。それはアートの範疇を超えて、人知を包摂した象徴的な存在といえるでしょう。実際、造形をルーツとしながらも、芸術の文化的波及のなかで知性と感性を発揮することを期待され、思想にも影響を及ぼしている戦後日本美術において唯一無二の作家です。岡﨑の進む先は、戦後に前衛美術のムーブメントも共通して向かった王道なのであり、個の才覚でそれを完遂しうる存在だったでしょう。現在においても岡﨑は、これからのアートを共時的なブームから通時的な事象へと定着させるために求められる存在といえます。少なくとも2040年が訪れるまでの日本のアートは、際限なく編み込まれた岡﨑の活動をあらためて解きほぐし、世界へと拡げていく時にあるのではないでしょうか。

岡﨑乾二郎は、1955年東京生まれ。1982年 パリ・ビエンナーレ招聘以来、数多くの国際展に出品。「灰塚アースワーク・プロジェクト」、「なかつくに公園」等のランドスケープ設計、1994〜1995年「戦後日本の前衛美術—Scream Against The Sky」グッゲンハイム美術館・サンフランシスコ近代美術館、2002年「ヴェネツィア・ビエンナーレ第8回建築展」(日本館ディレクター)、2007年 現代舞踊家トリシャ・ブラウンとのコラボレーションなど、つねに先鋭的な芸術活動を展開してきた。東京都現代美術館(2009~2010年)における特集展示では、1980年代の立体作品から最新の絵画まで俯瞰。2014年BankART1929「かたちの発語展」では、彫刻やタイルを中心に最新作を発表した。主なコレクションとして文化庁、大原美術館、富山県立近代美術館、兵庫県立近代美術館、世田谷美術館、高松市美術館、大阪市立近代美術館建設準備室、北九州市立美術館、国立国際美術館、千葉市美術館、三鷹市、セゾン現代美術館、東京国立近代美術館、大分市美術館、広島市現代美術館、いわき市立美術館、ベネッセアートサイト直島、東京都現代美術館、高橋コレクションがあります。

本展では、新作の大型絵画3点が発表され、展示が構成されます。
皆様のご来廊、心よりお待ち申し上げます。

 

 

岡﨑乾二郎

開催期間 2016年11月10日(木)― 12月11日(日)

開廊:火曜 – 土曜 12:00 – 19:00(休廊 日曜・月曜・祝日)

*最終日の日曜(12/11)は、開廊いたします。

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