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Past Exhibition

ラファエル ローゼンダール | Convenient

24 June - 29 July, 2017

Venue : Takuro Someya Contemporary Art

  • “Abstract Browsing 16 10 05 (Google Drive)” | 2016, tapestry, (H)200 x (W)144cm ©Rafael Rozendaal, Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art, Photo: Gert Jan van Rooij


 ラファエル・ローゼンダールの発表してきたウェブ作品は2001 年からこれまで113 点に及んでいます。その作品群は、ウェブの特性を基本構造にしつつ、私たちをとりまく自然現象すべてをモチーフに展開してきました。モチーフの多様さは、高い純度の豊かな色彩そして自由奔放に展開するコンポジションをもった作品の多様性として現れると同時に、見事な構造的な一貫性を示しています。これこそがローゼンダールの確固とした個人スタイルともいえますが、より重要なのは、この作品群がむしろ私たちに、個別の多様性、個性を超えた、より普遍的な構造の提示として迫るところにあります。

 ローゼンダールの作品にみられる、多様性と普遍性の重なりあう様相は、彼の母国オランダで展開した、デ・スティル・グループの運動を彷彿とさせます。デ・スティル・グループの活動は、純粋性と具体性の両極が重なり合うところにこそその特性がありました。具体性とは、芸術にとどまらず、日常のすべての事物、自然にあるすべての事物のもつ個別性であり、具体性です。にもかかわらず、この多様な具体性、この事物の独自の質は、同じ原理によって、つまり共有された基本エレメントが作り出す構造から展開する多様性として、把握されたのです。重要なのは、これが恣意的に設定された基本エレメントからの演繹操作から得られる多様性ではなく、むしろ多様性から帰納的に導きだされる普遍として、私たちが認識することにこそあります。それは個別(家具やカーペットなどのテキスタイル、器にいたるまで)から、普遍に向かうプロセスを、私たちが経験することこそがその作品群の特性だったということです。ローゼンダールの作品から、ドゥースブルフやファン・デル・レックの仕事の可能性の継承を私たちが感じ取ることの大切さは、この意味においてです。それは(現代文明にあふれるガジェットやキッチュ、までも含んだ)世界の雑多な多様性を拒まず、むしろ肯定的に受け入れ、なお、そこに共通する普遍を見出そうとする、作家の営為にほかなりません。ローゼンダールの仕事に認められるのは、世界に対する倫理的な姿勢としての造形意志といえるでしょう。

 本展の中心となる『Abstract Browsing tapestries』は、ウェブページの画面構成を抽象化した絵画作品で、2014年にローゼンダールが開発したプログラム作品『abstract browsing .net』がベースになっています。このプログラム作品は、ウェブページ上にある情報(PCのブラウザ上の画像、配置、テキスト)をすべて明るい色の幾何学的な配置に反転するGoogle Chromeのプラグインとして公開されています。彼は、私たちにもよく知られた数多くのサービスのサイト上で、このプログラムを走らせサンプルイメージを日々記録しており、その数は1000を超えているそうです。その中から私たちが絵として違和感を覚えるものをあえて選び、織りとして出力しタブローとします。このプログラム作品の制作背景に、近年のローゼンダールの考え方がよくあらわれています。それはインターネット上には、機械(機械的な仕組み)がエフィシェンシー(efficiency)を追求することで生み出した抽象がすでに立ち上がっており、人がエステティック(aesthetic)において求めてきた抽象との新しい関係を、『abstract browsing .net』によって光をあてようというところにあります。そのことはローゼンダールの見出した新しい抽象として認識されると同時に、インターネット上において、無数のエンジニアやプログラマーと無数のネットユーザーのやり取りをもとに帰納的に積み重ねていく仕組みの存在を感じさせます。ローゼンダールは、その仕組みが人の手から離れ、意思をもっているかのように自らの構造を変えていく途上を絵画として記録しているのかもしれません。また、メディウムとして織物を用いることによって、前回の個展「Somewhere」のステートメントでも触れた通り、織り機とコンピューターの起源へ遡り、デジタル化の流れを縦糸と横糸の現実の交差として通時的に示すことで、コンピューターアートによって生まれたもののすべてがスクリーン上に映し出されるわけではないことを物語っています。このように本作は最もローゼンダールらいしい作品と言える思想とユーモアが体現されています。ウェブやレンチキュラーでローゼンダールの作品をみることとまた別の、視覚だけでない触覚にも訴える体験を得ることができる本作は、赤青緑、そして蛍光色、ジャガード織りと用いられた糸の特有の重層的な絵肌が生み出され、柔らかい色彩の豊かさが、不思議と構造色を感じさせ幾重にもなるコンセプトに自然と思いを巡らす楽しみをもたらしています。

 この個展では、最近作『Shadow Objects』も数点が発表されます。レーザーカッターにより幾何学的な幾つかの形にシェーディングを施されたスチールプレートでつくられたこの作品には、最も効率的に素材を切り出す構成を、計算から導き出す工業的なアルゴリズムが用いられています。ローゼンダールは、アルゴリズムに向かって、プレートの種類やサイズ、彼のウェブ作品に登場する特有の図形を投げ込みます。アルゴリズムは、スチールプレートの範囲に与えられた図形を計算にもとづいた最も無駄がなく効率的であるとしたコンポジションとして切り出していきます。切り出されたプレートはローゼンダールによって壁掛けのオブジェクトとなります。作品の様相は、その空間の光と鑑賞者の視点により規定される普遍的な佇まいを持っていますが、ただ光と影をあつかった作例は、美術史のなかで多いことはよく知られています。例えばモネが取り組んだ『ルーアン大聖堂』では聖性を背景に受け取った、光と影そして時間を主題としてあらわしました。一方、ローゼンダールは幾何学形態を切り出したオブジェクトをとりまく光と影の変化をつくりだしてみせています。前者が、画家の感性によって直に感取された変化であり、後者は、プログラムとウェブを介して自然を逆に照らし出すアプローチをとっています。それは、自然法則も、人による法則(プログラムやコンセプト)も、それそのものを等しく作品に内包しうる、という考え方を持つアーティストであることが伺えます。この傾向は、ウェブ作品にもよくみてとることができ、その作品群をとおして『Shadow Objects』を観ると、厳密な計算と装置によって切り出されたシェーディングが、まるで光と影もプログラムするかのように、自然法則をも内側に取り込むように静かに佇んでいることが分かります。ジャッドの『Specific Objects』を引用したようなタイトルからも推察されるように、アメリカ美術のなかで育まれたハードコンセプチュアルの地平が、現代の新たな「実感」として再び展開し始めているのかもしれません。

 ローゼンダールと彼の作品はインターネットと物理世界の往還のなかで、一方通行な支配関係を取り結ぶのではなく、自らの発想とプログラムの関係へ、機知に富んだ詩性を滑り込ませることで、ある種、インターネットまでも包摂した文学的な境地に立っているのかも知れません。彼が英文俳句を嗜むことは、そのことを分かりやすく反映していると思えます。詠み人は、世界を可逆的な最小限の句として、その句をとおして世界を再認識することを促すのです。そこには極限まで制限されたメディアの中おいてなお人間性を確保しつづける、人の創意に満ちているのです。

 1980年オランダ生まれのラファエル・ローゼンダールは、ニューヨークをベースにしつつも特有の作品やライフスタイルから、スタジオを持たずにオンラインで世界中のあらゆる場所で制作を続けており、ローゼンダールにとって物理的な作品こそバーチャルな存在であって、美術館やギャラリーでの展覧会はそれを観察する貴重な場とコメントしています。昨年2016年から現在までの主な展覧会として、『デジタル・アブストラクション』HeK(スイス・バーゼル)、『ニュー・ゲームプレイ』ナムジュン・パイク・アートセンター(韓国・ソウル)、『ドゥーイングス・アンド・ノッツ』タリン・アート・ホール(タリン・エストニア)、『インソムニア』ボンニエシュ・クンストハル(ストックホルム・スウェーデン)、『ブラウン・ファミリー・コレクション』クンストハル・ロッテルダム(オランダ・ロッテルダム)、ヘット・ニュー・インスティテュート『スリープモード』(オランダ・ロッテルダム)、そして国内では、新たにはじまった茨城県北部6市町にわたる国際芸術祭『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭』への出展があります。主なパブリックコレクションでは、アムステルダム市立美術館(オランダ・アムステルダム)、ミュージアム・オブ・ザ・イメージ MOTI(オランダ、ブレダ)、ホイットニー美術館(アメリカ、ニューヨーク)など。

 

 

ラファエル ローゼンダール | Convenient

開催期間 2017年6月24日(土)― 7月29日(土)

開廊:火曜 – 土曜 12:00 – 19:00(休廊 日曜・月曜・祝日)

助成:オランダ王国大使館

オープニングレセプション:6月24日(土)18時 – 20時

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