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Past Exhibition

大山エンリコイサム | Present Tense

20 August - 24 September, 2016

Venue : Takuro Someya Contemporary Art

  • FFIGURATI #133, (H)183cm x (W) 487.7cm, 2014-2016, Acrylic-based aerosol, acrylic-based marker, sumi ink and latex paint on canvas mounted on aluminum and wood panels (4)


グラフィティ文化の視覚言語を翻案したモチーフで知られる大山エンリコイサムは、壁画や絵画を中心に、ライヴ・パフォーマンスやサウンド・インスタレーション、商業コラボレーションまで広く制作しています。70年代のニューヨークで生まれたグラフィティ文化は、名前をストリートにかくことで、かき手のアルター・エゴを表すものでした。そこでは、名前であることとストリートであることが強く結びついています。大山はその結び目を解くため、そこから文字を取り除き、描線の運動に還元し反復することで、抽象的なかたちの広がりに再構成します。

そのとき、それはかき手の名前であることをやめ、自身の名前と生をもつひとつの連続体となる-そうした構想のもと、作家はそのかたちを「クイック・ターン・ストラクチャー」という独自の呼称で呼んできました。それはストリートに限らず、さまざまな物理的・社会的・概念的なメディアと交渉をもち、そのつど運動の痕跡が媒体に定着することで、一回性の作品になると大山は述べます。個別の作品は、抽象的なモチーフであるクイック・ターン・ストラクチャーと区別され、FFIGURATIという語が連番とともに題名として与えられています。グラフィティの綴りをねじり、イタリア語の「figura ti (自身で象れ)」という表現を重ねた造語です。

 

大山は、クイック・ターン・ストラクチャーが含むさまざまな原理を個展名としてきました。「現在時制」を意味する本展タイトル「Present Tense」は、時間の問題を照らしています。多くの批評は「I was here」という特徴から落書きが「過去時制」を喚起すると判断しますが、それがかかれる瞬間、かき手はそこにいるという事実が見落とされがちです。かき手にとってリテラルな時制は「is here」なのです。ただ、それではあとから見る者の時制とずれてしまいます。そこで事後の視点を先取りし、「is」が「was」にあらかじめ置換されることで、遅れてくる観者にとって整合性のある、つまり時制の乱れが解消されたフィクショナルな現在が仮構されるのです。

このフィクショナルな現在は、過去・現在・未来という連続的かつ不可逆的な物理的時間を脱臼するものであり、異なる時点において観者が「見る」たびに、そのつど新たに組織され直すシンギュラリティとして経験されます。これはしかし、芸術の経験そのものではないでしょうか。クイック・ターン・ストラクチャーとFFIGURATIの関係も、こうした連続性と一回性の緊張を孕んでいます。線の痕跡の集積から浮かび上がる図像性と、見る者の「いま」の相互作用。各人が作品を見るたびに、自身の現在時制を画面から感じて頂ければ幸いです。

 

大山エンリコイサムは1983年イタリア人の父と日本人の母のもと東京に生まれ、2007年に慶応義塾大学 環境情報学部を卒業後、2009年に東京芸術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻を修了。アジアン・カルチュラル・カウンシルの2011年度グランティとしてニューヨーク滞在以降、同地を拠点としながら各地で個展を行ない、一貫性を保ちつつ変化に富む作風を発展させました。

2014年の「クイック・ターン・ストラクチャー」(ニュージャージー・シティ大学 ヴィジュアル・アーツ・ギャラリー)では、壁、天井、床、キャンヴァス、紙、ファウンド・オブジェ、ヴィデオなど支持体やスケールを横断するクイック・ターン・ストラクチャーの多面性を提示。2015年の「インプロヴァイズド・ミュラル」(チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ、ロンドン)では、ライヴ・ペインティングで培われた即興的な描線で広大なスペースに壁画インスタレーションを制作。今年2月に開催された「素数のように Like A Prime Number」(大和日英基金、ロンドン)では、数列と素数のメタファーを用いながら、ステンシルやエアブラシなど新技法を導入して制作されたFFIGURATI作品の一回性を強調しました。

 

本展「Present Tense」は、大山の日本国内では初の本格的な個展です。インプロヴァイズド・ループスと呼ばれるダイナミックな背景に繊細なクイック・ターン・ストラクチャーを84体かきこんだ大型作品<FFIGURATI #133>や、ひび割れ塗料が生み出すテクスチャのうえに鋭利なメカニカル・ペンシルで静謐なクイック・ターン・ストラクチャーをかきこんだ連作5点など、すべて新作で構成されています。フィギュラティヴな洗練と、パフォーマティヴな躍動感という大山の両面が織り合わさりながら流れこむ本展は、作家のこれまでの展開を見通す絶好の機会です。ぜひご堪能ください。

 

 

大山エンリコイサム  |  Present Tense

開催期間 2016年8月20日 – 9月24日

開廊:火曜 – 土曜 12:00 – 19:00(休廊 日曜・月曜・祝日)

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