Takuro Someya Contemporary Artは、2026年6月13日(土)から7月25日(土)まで、辻可愛による個展「かたちぐさ A Seed of Form」を開催いたします。
当ギャラリーとしては初の展覧会となり、辻が本個展に向けて取り組んだ大型の作品をはじめさまざまなスケールの新作絵画およそ20点を発表いたします。
日常の景色を形づくるものの中には、目に見える輪郭や色彩だけでなく、時間の流れ、大気の移動、地中の働き、微生物、あるいは遠く離れた海から届く酸素のように、直接には捉えがたい要素が複雑に含まれています。辻は、そうした不可視の連関を観察し、記憶し、感覚し、想像することを通して、「何が見えているか、どのように見ているか、なぜそのように見えているのか」を絵画やドローイングを通じて問い直してきました。
本展のタイトル「かたちぐさ」は、作家による造語です。「形種」と書くこの言葉には、「形が生じるもとになるもの」という意味が込められています。「種(くさ)」は、「語り種」や「笑い種」に見られるように、物事が生じる素地、原因、きっかけを指す語でもあります。ひらがなで表されたこの言葉は、固定された概念としてではなく、かたちが生まれる前の揺らぎや兆し、あるいは見えているものの内側に潜む流れやつながりを指し示しています。近年の辻は、風景をモチーフとしながら、そこに異なるスケールの時間や運動を見出すことに関心を寄せてきました。たとえば、太陽光を「運動、生命、複雑性へと変換するエンジン」(*)としての海。雲、風、太陽、波、植物、地形といった自然の手がかり。あるいは、マーシャル諸島の航海術に用いられたスティックチャートのように、海流やうねり、島々の関係を身体的な知として読み解くための造形。これらの参照は、風景を見ることを単なる視覚的認識にとどめず、自らの置かれた世界とどのように関わるのかを探るための手がかりとなっています。
出展作《かたちぐさ No.3》(2026年)では、光を受けた海面や空の反射を思わせる明るい色面、深度を帯びた寒色の広がり、熱を含んだ橙色の膨らみ、そして地表や水辺の微細なざわめきを思わせる筆触が、幾何学的な分割と有機的な曲線のあいだでせめぎ合うように配されています。遠景にのぞく鋭角は、地形、帆、波、光の反射、あるいは視線の進路を思わせる一方、画面中央を縦に走る柔らかな線や、垂れ下がる雫状の形態は、身体的で触覚的な感覚を引き寄せます。キャンバスにはアクリル絵具の淡いグラデーション、滲み、擦れ、筆跡の密度差が残されており、色彩は温度や湿度、圧力を帯びたものとして現れます。光の通路のように画面を横断する大きな帯、影や水底を思わせる深度、熱や太陽光の拡散を感じさせる広がりが、画面に複数の気配をもたらしています。その一方で、画面下部の緑がかった細かな筆触は、苔、草、海藻、波の泡立ち、あるいは微細な生命の集積を思わせ、巨視的な風景と微視的な運動がひとつの構図のなかで交差しているようにも見えます。
辻の絵画において、風景の断片は身体の感覚へ、地図のような線は光や水の運動へ、色面はまだ名をもたない気配へと、鑑賞者のまなざしのなかで姿を変えていきます。モチーフとなる対象を完全に失うことなく、同時に既知の形へと安定することもありません。 それは、近代以降の絵画が繰り返し問うてきた「見ること」の問題を、環境への感受性や、世界との関わり方の問題へと開いていく試みでもあります。そこに現れるのは、目に見えるものの内側に潜む流れ、つながりやそのもつれが、かたちとしてふと結晶し、またほどけていくような瞬間です。本展は、そうした絵画のうちに潜む生成の兆しを見つめ直し、見ることが、世界との関係を結び直す契機となりうることを静かに示しています。
*ヘレン・チェルスキー『ブルー・マシン:海というエンジンと人類史』林真訳、エイアンドエフ、2024年、16頁
Takuro Someya Contemporary Art
辻可愛
1982年長崎生まれ、東京在住。2006年東京工芸大学芸術学部デザイン学科卒業。2009年から2012年まで四谷アート・ステュディウムで学ぶ。風景や身体感覚、その観察を手がかりに、見ることと世界との関係が揺らぎながら結び直される場として絵画を制作している。主な個展に「萌しさがし」(2025年、twililight、東京)、「あいだの捻転」(2023年、twililight、東京)、「節むす穴むす」(2019年、スタジオ35分、東京)など。主なグループ展に、外島貴幸キュレーション「ヌケガラ(OFF)とマトイ(ON)」(2021年、TALION GALLERY、東京)、「I Say Yesterday, You Hear Tomorrow. Visions from Japan」(2018年、GALLERIE DELLE PRIGIONI、イタリア)など。その他、2020年にUNDERCOVERよりリリースされたZINE『SN』 #01参加。
辻可愛|かたちぐさ A Seed of Form
会期:2026年6月13日(土)~2026年7月25日(土)
レセプション:6月13日(土)15:00 – 18:00 ※作家在廊予定
開廊:火〜土 11:00 – 18:00
休廊:日曜・月曜・祝日
会場:Takuro Someya Contemporary Art
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex I 3F TSCA
tel 03-6712-9887 |fax 03-4578-0318 |e-mail gallery@tsca.jp

