Close
Past Exhibition

伊勢周平|賽の一振り

18 July - 22 August, 2015

Venue : Takuro Someya Contemporary Art

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, “On and On” 「延々と」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, “Major League Ball #8″「大リーグボール8号」, 2015, Oil on canvas, キャンバスに油彩, H 41 x W 31.8 cm

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, “Whereabouts of Choices,” 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, “Candle” 「蝋燭」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, “Canvas in the Jungle” 「賽の一振り」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

  • Installation view from “A Throw of the Dice”「賽の一振り」, 2015, Takuro Someya Contemporary Art, Tokyo

この度、TSCAでは、7月18日(土) より伊勢周平の個展「賽の一振り」を開催いたします。伊勢は、これまで一貫して絵画に取り組んできました。油彩で、筆を押し込むようにして画面に圧をかけながら引かれる肉厚で均整のとれた筆致。とろりと混ざり合った油絵具が生み出すマチエールとトーンとが、不可分に連合した画面構成。でありながら、単なるアブストラクトな線描に収束せず、特定のモチーフを予感させる具体的イメージ。彼の絵画は、極めてスタンダードで、絵のマナーに忠実でありながら、たぐいまれな質と強さを帯び、そこに美しくたたずんでいます。ここには画家・伊勢周平の絵画を-感性や行為や観念が緊密かつ微妙なバランスで合致した-偶然と必然の存在論として観照することができるのです。

 

伊勢は本展に向けて、絵を描く気構えについて、自身の過去の言葉を手掛かりにして省察しています。曰く「− 生活に充足感があるのは良い。一方でそんなつまらないこともない。じゃあどうするかというと、目的をずらして遠くに投げてみる。その地点できっと初めて面白さの質や段階がみえる。それを繰り返すとどうなるのか。−」と。ここでいう「遠くに投げてみる」とは、画面において目的因子を排し、不条理を能動的に引き起こす行為だと言います。不条理、それは画面が飽和状態に達したところで、それをゼロベースまで引き戻すようなプロセスによってもたらされるものかもしれません。絵画制作において、目的に統括された必然的帰結を避け、偶然を積極的に招き入れる所作と言っても良いでしょう。そうした沢山の不条理を引き受けてなお、画面そのものが鑑賞に堪えうるのは強い絵であると、彼は述べるのです。

 

翻って、伊勢は本展のタイトルを『賽の一振り』と命名しました。これは、彼の偶有性をはらんだ絵画制作の姿勢を、マラルメの詩篇『賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう』*に重ね合わせているからです。マラルメは生涯にわたって詩作から偶発的な要素を取り除こうと試みていた詩人でしたが、最後に到達したのがこの詩篇だったのです。この詩の形式においては偶然が積極的に取り込まれ、白い見開きページに視覚的に散りばめられた語句の断片には、線型の言語的必然を離れた人間の意志の自由な現れがあり、「偶然による創造の力の祝賀」(Roger. 2010)が込められたのだと言われています。さらには、マラルメの詩作をたんに必然と偶然の対立とみるのではなく、世界が偶然で成り立っていること自体を必然と捉えるような眼差しが導出されるのです(Meillassoux. 2011)。これは、伊勢の絵画の存在論と色濃く共振するものなのでしょう。本展をご覧いただき、伊勢のこれまでの画業を丁寧にたどれば、そのことがおわかりいただけると思います。芸大在学中の正確不動な筆致と完結した画面構成から、ドイツ留学をへて、彼の絵画はより自由になり、画面や絵具とのみずみずしい対話によって「ただの絵」として結実しているのです。

 

本展覧会では、新作ペインティングと新たなマテリアル研究の成果を基にした不乾性オイルによる絵画の新たな可能性の探求も発表されます。

 

皆様のご来場、心よりお待ち申し上げます。

 

*ステファヌ・マラルメ『賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう』
19世紀のフランスの詩人であったマラルメが結果として最後に手掛けた詩篇。フォントや字の大きさ、文法が見開きページ内でカオティックに変容しながら、詩の内容を表象する形象的配置をあたえるなど、書物としての詩の革新を試みた視覚詩の先駆け。挿絵をオディロン・ルドンが担当する豪華本になる予定であったが、その出版間際にマラルメの逝去によって実現されなかった。マラルメは基本的に詩の挿絵を嫌ったが、この本についてはみずからルドンに絵を依頼した手紙も残っており、彼の作品を好意的に捉えている。ちなみに伊勢もまたルドンを敬愛しており、画家を志す最初の発端となった巨匠である。本作は、歴史的にみてもっとも多様な解釈を生み出している詩の一つであり、2011年にはメイヤスーによる新たな解読も発表された。邦題は柏倉康夫氏(2009年発行)によるもの。

 

————————————

会期:2015年7月18日 (土) – 8月22日 (土)

開廊:火曜 – 土曜 12:00 – 19:00 (休廊 日曜・月曜・祝日)

オープニングレセプション: 7月18日(土) 18:00 – 20:00

Artist Profile

scroll to top